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NEXTEP5周年記念講演会 いつもいいことさがし

2006年02月18日 更新

NEXTEP5周年記念講演会のゲストは、小児白血病治療の第一人者である「細谷亮太氏(聖路加国際病院副院長)」です。日ごろの子どもたちとの関わりの中で感じた日本の子供たちの現状などを多数の著書に記されています。

 

◎日 時: 2006年2月18日(土)
開場 10:00~  講演  10:30~12:00 9時~15時
◎場 所: 熊本市産業文化会館6F 第5・6会議室
(熊本市花畑町7-10)

◆九州全域から集まった100人を超える参加者の熱気ムンムンの中で、小児科病棟のエピソードからスタートしました。

 

私たちの小児科病棟がNHKスペシャルとして取り上げられたのですが。3組の子どもの心の交流を縦糸に描いています。そのなかの一組、神経芽腫の患者さんの交流です。そへいさん(5歳)、つかさくんの交流です。

 

この中で印象的だったのはそへいさんがもうすぐ小学校になる年齢になるということで、ディレクターにインタビューされ、「学校に行って勉強したい」と話すんです。私は学校の頃あまり勉強は好きではありませんでしたが、学ぶ喜びを訴えるそへいさんの姿に心うたれました。

 

【小児科そして老年科】

 

◆小児科医について話されます

 

小児科医とは何かという事を話しましょう。一言で言えば子ども達に関わる仕事なんです。健康な子ども時代を過ごして健康な大人になってもらう事の手伝いをする事ではなんです。

 

生まれてすぐから小児科は関わるんです。たまに子どもが好きな産婦人科医も見てくれますが、やはり基本は小児科の仕事です。そして私はその方が成長して成熟して老化が始まる直前まで診るんです

 

小児は総合診療的な所があるんです。私自身小児がんが専門なんですが、最初のは4年くらい小児全般を見ていました。

 

お年寄りは、多くの場合複合的に病気になっている事があり得るんです。例えば胸が痛くて心筋梗塞ということで循環器の内科にかかっていたとします。経過も良好で、半年毎の経過も心臓診て、元気に動いている事を確認しています。ちょっと胃がムカムカしますなんて言っても飲み過ぎたんじゃない?って事で 『あ、そういや結構お酒飲みました、あのせいですね』なんて過ぎてしまい、どうにもならなくなってしまった時に末期の胃がんだったなんて言う悲劇もありうるんですよね。最近は、特に大きな病院になってしまうと専門が細分化されすぎてしまって専門外の事は診られないってこともあるようで、要注意です。

 

その点小児科は全部見ないといけないって訳です。

 

◆小児科との対比で老年医療にも話が広がります。

 

もちろんお年寄りを診る医療も必要です。

 

うちの病院の理事長の日野原先生はなかなかですよね。ユーモアのセンスもすごい。文化勲章受賞の時、雅楽を聴くということがあったようで、天皇陛下の隣に座っていたようなのですが、寝てしまった。後ろに知り合いがいて、蹴ってくれると起きるのですが、また寝てしまう。蹴られる、目が覚める、寝る。それが何度か続いたようです。あとでその知人が謝って行った言葉が奮っているんですね。『すみません、陛下まであと1cmでしたから』こんなエピソードを折に触れて話してくれるんですよ。

 

ユーモアのある老人はほっておいても良いんですけどねえ。

 

【がんの話】

 

◆細谷先生の専門のがんの話に展開します。

 

私の仕事は小児がん、一般外来、教育(臨床研修、聖ルカ看護大)を行っています。もちろんがんの専門ですので、がんに力を入れています。小児がんからインフォームドコンセントの概念がいっぱい出てきました。1972年に私が医者になった当時、日本では不治の病。しかし、アメリカではぽつぽつ治り始めていました。小児のがんは大人と違って、白血病が最多なんですね。日本では年間3000人程度の患者さんがいます。子どもの病気の中で命にかかわるもので、子どもの死亡の中ではがんは1/8を占めます。事故ももちろん多く1/4を占めるのですが。現在の白血病は8割治るんですが、裏を返せば2割治らないんですね。

 

◆がんには告知問題が切り離せません

 

子どもに向かって 嘘をつくのは行けないというのも基本のポリシーとしてあります。子ども本人に告知はどうするかと言いますと、病気というのはプライベートな事である事を理解できる時期を見計らう事にしています。6歳でも分かる子はいるんです。

 

1986年に行ったお子さんへの告知のお話をします。愛媛の宇和島の方でしたが、聖ルカへ紹介され、幸いな事に治ったんですね。退院の際、本人に告知してくれと親御さんに頼まれたんです。そこで告知を精神科、臨床心理士の方とチームを組んで行いました。告知の前と後に書いてもらった絵と心理テストから総合的に判断すると、心境の変化があった事がうかがえました。

 

◆本人の兄弟も子どもです。その告知もどうするのでしょうか

 

りょうたくんには8歳のお姉ちゃん、6歳のお兄ちゃんがいました。りょうた君ががんになってしまい、兄弟にも伝えて欲しいと言われました。

 

兄弟に伝える際にスーザンバーレイ作の「わすれられないおくりもの」の力を借りました。これは名作中の名作です。

 

「わすれられないおくりもの」はこんな内容です。「冬、暖炉に当たりながら、主人公の年を取ったアナグマはもう長くないと感じ取り、みんなに手紙を書いているうちに、うとうととします。目が覚めるとトンネルを走っています。ふわっと浮き上がったらそこは天国だったんです。そしてアナグマが亡くなった後に残されたみんなは思い出の話をするんです。

 

この絵本を読んだ後にりょうた君もトンネルの向こうの世界に行くんだよという事を伝えたのです。

 

この本には重要なメッセージがあるんです。私たち大人のニュアンスでは本人が残した記憶や残されたものが贈り物だというメッセージを感じます。でもりょうた君の兄弟が受けた印象は別の角度からのものでした。それは死ぬ時に苦しくないということと、弟が動けなくなっているが死ぬ前に手足が自由になって行くイメージだったのです。

 

(編集者注:小児病棟の四季 岩波現代文庫p3-にもりょうた君のエピソードは掲載されています)

 

【小児と現代社会】

 

◆タバコの害にも触れられます。

 

「もし日本国民が一斉に喫煙をやめたら年間国家予算の3兆円減らせるという試算があります。JTが納めている税金が1兆5千億円程度らしいので差し引き1兆5千億円の節約になるのではないでしょうか。初年度はJTの職員の方やタバコ農家の方への職をかわるために使ったとしても次の年から削減になる訳ですしね。

 

さて、お父さんのタバコで受ける害は乳幼児の突然死のリスクを上げます。うつぶせ寝も危険と言われていまして仰向けで寝ている子どもの2倍引き起こしやすくなりますが、タバコは4倍も引き起こしやすくなるんですね。

 

私の友人で大腸癌になり、治療で治ったのがいるんですが、タバコをやめろと言うんですけど全く言う事をきかず、やめなかったのが、とうとう肺がんになってしまったんですよ。そうしたらなんて言ったと思います?「お前がもっと熱心に禁煙を勧めないから俺は肺がんになった。」

 

うちの病院も敷地内禁煙をしたんですね。すると病院の周りがタバコの吸い殻の山になってしまっているんです。そこでディズニーランドの清掃スタッフのように、明るく、これ見よがしにタバコの吸い殻を拾ってまわっています。

 

◆医療の根源的なものについて語られます。

 

 

哲学者の山折氏の講演を聴いたのですが、氏の主治医のいう、医療者にとって3つの重要な事が印象的でした。それは、『とめる』、『ほめる』、『さする』の3つなのです。

 

『とめる』は痛い苦しいを止めるんです。これこそ手を当てるとかく手当ての原点です。西洋医学ではおなかを触る際、膝を曲げておなかを緩めますが、東洋医学では平らになった腹部を触るようです。すると、おなか壊している場合には痛い所が冷たく感じ取れるようです。こういった事に通じるのかなどと思います。

 

そして『さする』。肩に手を置くだけでも安心感があります。こういった接触は人間と人間が直接関わって始めてできる事です。バーチャルな世界の中でできないんです。

 

◆一番話したいこととおっしゃっていた、一方通行のメディアやITと小児の関係について話されます。

 

ITやロボットといった道具が人間に取って代われないものがあると思います。確かに介護の支援ロボットなどまではできるかもしれませんし、話しかけたら応答するプログラムは簡単に書く事ができるかもしれませんが、山折先生の言っていた医療者の要件「とめる」「ほめる」「さする」はどうでしょう。ロボットにほめられて嬉しいですか?

 

世界中の小児科医は小さい子にテレビがいけない事は知っています。2歳までテレビがない方が良いという報告もあります。なぜ2歳までテレビはいけないんでしょうか。結局のところ分かってはいないんですね。しかし、何故と考えるのは重要です。2歳検診で2語文を話す事をチェックするんですが、2語文話さない子が多くなってるんですね。テレビを観るのが増える事で言語、社会性が低いようなデータも出ています。

 

◆さらにコミュニケーション論になり、議論を深めて行きます。

 

また、「0歳児が言葉を獲得する時」京都大学霊長類研究所の正高先生が書かれている本の話に母乳を吸う際に休むのは人間だけという話が書かれていました。他の動物は授乳時には休憩せず吸い続けるらしいんです。なぜ人は吸うのを止めるのかというと、コミュニケーションを取っているというんですよ。

 

逆さから見れば、こういった機能をなくすには双方向のコミュニケーションをなくせば良いんですよね。

 

世の中にはいろんな事を考える人がいて赤ん坊を揺すると泣き止むって言う事で赤ん坊を揺する機械っていうのができたらしいんですよね。よく聞いてみると、その開発に人間工学をかじっていた私の息子が開発に携わっていたと聞いて、とんでもないと思っております。

 

◆双方向コミュニケーション、自然に還ることの必要性を述べられてまとめられます。

 

私は山形の出身ですが、どもんけんさんという郷土の写真家がいます。代表作に「筑豊の子ども達」というものがありますが、今回は紙芝居屋さんの写真を観て頂きます。この紙芝居は双方向性のコミュニケーションがあります。子ども達の反応にあわせて語り口を変化させて行くんですから。日本の演劇もそうでしたよね。歌舞伎などで「成駒屋―」などとかけ声が入ってくるわけですよ。

 

小児科医の松田道夫先生の本ので「テレビの学校」との表現がありましたが、そこでは企業が校長先生となっていて、お金がメインの世界です。心がないがしろにされているんです。残念ながら今の子ども達の眼の輝きはなくなってきています。少し、(一方方向のメディア、都市生活などから離れて)自然の中で生きてみるということもやってみるのはどうでしょうか。この講演会を主催している団体のNEXTEPも農作業やっているようですが、こういった体験をやってみることは大切なんですよね。

 

私も小児がん子どもたちを集めてキャンプをやっています。お話や、乗馬など行い、外側からの雑音をシャットアウトしたものを行っています。

 

いろんな形で大人は子どもを守って行くのが必要なのだと思います。

 

細谷先生の優しく、しかし力のあるまなざしが印象的で、参加者はメッセージをしっかり受け止めていました。感動も覚めやらないまま、交流会に引き継がれ、60人以上の人が参加し、細谷先生と熱心に話す参加者で盛り上がりました。

 

(文: 西田大輔)

NEXTEPの活動にご支援いただいている特別協賛各社